
d_593578 黒ギャルお姉さん〜土下座でお願いしてみた〜
彼女いない歴=年齢の俺は、今日こそ自分を変えようと決意していた。
ジムで鍛えた体、鏡の前で何度も練習した笑顔、そしてネットで仕入れた「ナンパの成功セリフ集」。
そのすべてを武器に、灼熱の海辺へと繰り出したのだ。
「声かけるなら、‘笑顔でさりげなく’だよな…よし、いけ俺!」
そう呟いていたそのとき、目の前を通り過ぎたのは、まるで夏そのものを体現したような女性。
こんがりと焼けた肌、キラキラのネイル、サングラス越しの鋭い視線。
黒ギャルだった。
「お、お姉さん!
今、時間、ありますかッ!」
練習の成果はどこへやら。
声は裏返り、汗はダラダラ。
彼女は立ち止まり、ジロリとこちらを見る。
「え、なに?
ナンパ?
笑、マジで?
どーしたの、筋肉マン」
うわー、終わった…。
これは完全に冷笑されてるパターンだ。
でももう、引き下がれない。
勇気を振り絞った俺は、ついに――海辺で土下座した。
「俺、本気なんです!
彼女ができたことないんです!
人生変えたいんです!」
周囲の視線が痛い。
波の音も笑っている気がする。
でも、そのとき彼女の反応は――意外なものだった。
「……あんた、ウケるんだけど(笑)まじ土下座って…。
バカじゃないの?」
彼女はあきれたように言いながらも、なぜか座り込んで俺の目線まで降りてきた。
そして、真顔でこう続けた。
「でもさ、あたし、必死な男って嫌いじゃないよ。
つか、面白いじゃん、あんた」
まさかの笑顔。
しかも、ちょっと優しいやつ。
「しょーがないなー。
じゃあ、今日1日、あたしの荷物持ち&お供、してくれる?」
「は、はいっ!!」
「でも、変な期待したらブッ飛ばすからね?」
彼女はそう言って笑った。
俺の心臓は、筋トレのあとみたいにバクバクしてた。
その日、俺は彼女のビーチバッグを持って、パラソルを立てて、焼きそばを買いに走った。
彼女は俺に日焼け止めを塗らせ、くすくす笑いながら言った。
「もしかして、ちょっと楽しいかもね。
あんたみたいなのも」
これはナンパ?
それとも修行?
わからないけど、人生の夏が今、始まった気がした――。
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